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INTERVIEW | 2024.04.16

第7回
こまやかな表情を彩り豊かに描き出すアーティスト
【山下えり】

「ANIMAL TAROT」作者 山下えりさんによる、原画展&ギャラリートークが開催されました。
イラストを描き始めたきっかけやANIMAL TAROTについてなど、山下えりさんにインタビューを行いました。


ANIMAL TAROT 原画展


1.山下えりさんご自身と制作活動について



── イラストを描き始めたきっかけや時期を教えてください。

小学校1年生(6歳)ごろです。

ゲームのキャラクターなどを描いているうちに、見たものを真似して描き写すのが得意であることに気づきました。
描いた絵を友達にあげたら喜ばれて、仲良くなれたことがきっかけです。


── 影響を受けた人物や事柄などありますか。

額縁店で働いていた際に、店内のギャラリーで展示をしていたイラストレーターの方や、自宅に絵を飾るために額縁を買い求めに来るお客様と接する機会が多くありました。

それまでの私にとって、アートは美術館などの日常と切り離された空間で楽しむもので、知識がない人にとっては、敷居が高くて難解なものというイメージが強かったのですが、カジュアルなイラストを描く作家さんや、生活空間の中で気軽に絵を飾って楽しむお客さんと出会ったことにより、「一般の人が購入して楽しめるような、親しみやすい作品を作り、それを仕事にすることは可能なのだ」というビジョンを持てるようになりました。


── 普段の生活の中で出会った方から自然と影響され、気付きがあったのですね。実際にイラストを描き始めた事で感じた事、または感じている事などはありますか。

自分の理想通りに描けないので、自分の作品を気に入ることはほとんどなく、積極的に人に見せたいという気持ちにはなかなかなれないのですが、見てくださる方は、私の作品に強い思い入れを持ってくださっていたり、思いのほか高評価をいただくこともあるので、正直、面食らうことが多いです。


── 理想通りには描けないという事ですが、毎回イラストを描く上で大切にしている事などはありますか。

人を楽しませたり、明るい気持ちになる作品を作りたいと思っています。

個人的な好みは別として、誰が見てもある程度、調和していて美しいと感じられるような色合いにすることも心がけています。

作品には作者のエネルギー状態がそのまま反映され、見えないレベルで鑑賞者や飾られた空間に影響を与えると考えているので、自分の個人的なエゴや負の感情をなるべく入れないで制作するようにしています。


── それはイラストを描くという事だけでなく制作活動を通して思う事でもあるのでしょうか。

非常にドライな考え方ではありますが、私は単に美しい物を作るだけでは、本質的な幸せを提供できないのではないかと感じています。

作品を見たり所有したりすることは、一時的な慰めや楽しみにはなっても、精神的な問題を根元から癒す手段になるとは思っていないからです。
他者の作品に救われる人もいるかもしれませんが、私自身はそこまで深い体験をしたことがありません。

なので、有形無形を問わず、鑑賞者の精神性を高めるのに役立つようなもの、人の意識を良い方向に変えるきっかけになるものを提供したいという気持ちがあります。

「アニマルタロット」も、そのような意図を持って制作しました。


── 制作活動についての今までのキャリアを教えてください。

2018年に個展をした際に、初めて抽象画に挑戦して、具象にはない面白さを感じました。

2022年には「ANIMAL TAROT」の原画展を開催しました。
商品パッケージや雑貨等のデザインもさせていただいています。





2.タロット(占い)との関わりについて



── タロットや占いとの出会いについて教えてください。いつ頃から興味を持ち始めたのでしょうか。

自分の精神的な問題を解決する手段を探す中で、スピリチュアルや自己啓発、心理学等の精神的な分野に興味を持つようになり、10代の頃からそういった本を濫読していました。

20代後半頃、セミナーの中でオラクルカードリーディングを習う機会があり、最初は練習のつもりで友人や知人にカードリーディングを行なっていましたが、我ながらすごく当たることに驚いて、カードの面白さと魅力にハマりました。

だんだん込み入った相談を受けるようになって来て、オラクルカードだけでは対応が難しいと感じるようになり、独学でタロットカードを学んで、併用するようになりました。


── すごく当たるとはすごいです!実際にカードを使用して何か活動をしていたのでしょうか。

職業とはしていませんが、主に親戚や友人、知人のリーディングを無償でしていました。

今も個人的に頼まれたときは、カードを使って人の相談にのっています。


── 山下さんにとってタロット(占い)とはどのようなものですか。

直観を通してメッセージを受け取るための媒介であり、現実の傾向と対策を客観的に知るためのツールでしょうか。


「ANIMAL TAROT」



3.「ANIMAL TAROT」について



── どのようなタロットカードでしょうか。作ったきっかけなど教えてください。

自分自身がタロットを学ぶ過程で、使いにくい、難しいと感じたポイントがいくつかあったので、そういった課題をカバーできるデッキがあれば、初心者でも使いやすいのではないかと思って作りました。

オラクルカードのように、カードに意味が記載されていて、解説書が同梱されていると、意味を覚えていなくても、買ったらすぐに使うことができます。

さらに、カードの意味を絵から直感的に読み取れるように、絵の印象とカードの意味がリンクするような絵柄にすることや、ネガティブな意味のカードでも、恐怖感を与えない表現にすることを心がけました。


── 全体的に優しい印象のカードになっていますよね。何より色がとてもキレイです。色へのこだわりがとても感じられます。

画材は水彩紙にアクリルガッシュで描いています。

印刷サイズが小さくても視認性が良いよう、はっきり、くっきりした色使いにしました。
カード一枚一枚の個性を際立たせるため、あまり統一感を持たせず、様々なトーンの色や描き方を使い分けました。


── 動物たちの表情も豊かなので、それだけで状況が想像できますよね。今回はなぜ動物をメインにしたのですか。

動物が好きで、子供の頃から動物の絵をよく描いていたからです。

また、カードの寓意と、それぞれの動物の持つ象徴性がリンクするように当てはめることで、各カードの意味を分かりやすく表すことができると考えました。

例えば、「女帝」の絵は雌牛ですが、牛は洋の東西を問わず、豊かさを象徴する動物なので、女帝のカードの持つ意味を表すのにちょうどいいと思い、選びました。


── 制作にあたって苦労した点・良かった点など教えてください。

どのカードにどの動物を当てはめるか、元ネタであるウェイト版の絵柄をどのように翻案して描けばうまく意味が伝わるか、というところを考えるのが難しかったです。

解説書は字数に制限のある中、うまくまとめられたのではないかと思っています。


── 細かい部分まで丁寧に描き上げているイラストですので、制作に随分時間がかかったのではないでしょうか。

最初にカードを作りたいと思いついてから、構想が決まって取り掛かるまでに7年、実制作期間は2年半くらいかかっているので、発売までにトータル10年くらいかかりました。


── 10年!びっくりしました。たっぷり時間をかけた作品です。周りの反応はいかがでしたか。

初心者の方からは、「説明がついているので分かりやすい」「怖くない」「可愛い」といった感想を多くいただき、プロの方からは、「読みやすい」「絵がカードの意味をうまく表している」といった言葉をいただけて、嬉しく思っています。


── 励みになるお言葉ですよね。実際に制作してみて心の変化や気づきなどありましたか。

最初はほとんど自己満足のつもりで作り始めたので、想像以上に反響をいただき、驚いています。

私がタロットを始めた10年前と比べて、タロットへのニーズはかなり大きくなっていて、占い師ではない一般の方にも、広く浸透し始めているのではないかと感じます。


── 「ANIMAL TAROT」を使う時のコツ、使い方などあれば教えてください。

カードに運命を委ねたり、結果の良し悪しを聞いて振り回されるのではなく、主体的に自分の現実を創造するために、カードからアドバイスをもらうというスタンスで使って欲しいです。

一般的な解釈や解説書の内容に囚われず、絵をよく見て、自分自身が主観的、直観的に感じた印象を大事にして読んでいく訓練をするといいと思います。




原画展の様子



4.「自己との対話」について


── 東京タロット美術館は「自己との対話」をコンセプトとしています。
山下さんにとって「自己との対話」とはどのようなものでしょうか。


精神世界の教えには、色々な流派やアプローチがありますが、どのような教えにも共通していることは、「自分自身の意識のあり方が、自分の現実を創り出している」という原則だと思います。
だから、自分の内面を良い状態に変えていかない限り、望ましい現実の出来事を引き起こすことはできません。

私は常に、その法則を前提に物事を見ているので、周りでどんな出来事が起きたとしても、「自分はこれについてどう感じているか?」「なぜそのように感じるのか?」など、自分自身の内側を客観的に観察することで、外側の状況に飲み込まれないよう意識しています。

ネガティブな思考や感情が湧いた時は、それを否定することなく無条件に受け入れて、「そう思うんだね、そう思ってもいいよ」と自分自身に語りかけ、出てきた感情を意識的に解放するように心がけています。

ネガティブ感情が十分に浄化されたと感じた段階で、「自分の中にあるどんな要素が、今の現実をもたらしているんだろう?」「本当は何を望んでいるのか?」と自分の内面に問いかけて、さらに内観を深めていくという手順を踏んでいます。




5.今後の活動について


── 今後の活動や目標などありましたら教えてください。

次はオラクルカードを作りたいです。

作品に関しては、平面だけでなく、陶芸や木工など、紙以外の素材を使った立体にもチャレンジしてみたいです。

また、雑貨やテキスタイルなどの実用品を、もっとデザイン、制作して、自分で販売してみたいと思っています。


ミュージアムカフェ「カフェタロー」での特別イベントプレート





山下えり×東京タロット美術館
ANIMAL TAROT 原画展&ギャラリートーク

<原画展>
2024.2.20 Tue – 3.6 Wed


<ギャラリートーク>
2024.2.28 Wed
2024.3.6 Wed

詳細はEVENT / EXHIBITIONページをご覧ください