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INTERVIEW | 2023.08.18

第5回
古典タロットに描かれた叡智を現代につなぐ
【香月ひかる】

2023年5月、香月ひかる氏による書籍『ミンキアーテ・タロット~メディチ家に捧げたタロット~』が出版となり、東京タロット美術館にてトークショーが開催されました。
イタリア・ルネサンス期に芸術の都フィレンツェで誕生したタロットカード、ミンキアーテ。
その謎に満ちた誕生の背景や、込められた意味を読み解くためにイタリア語を学び、現地で取材を重ねた香月氏。
その情熱の源や、伝えていきたい先人のメッセージなどについてお話を伺いました。

香月ひかる氏



1.ミンキアーテ・タロットについて



── まずはミンキアーテ・タロットについて教えて下さい。
名前もあまり聞きなじみがなく、見たところ、一般的な現代のタロットカードとはかなり様子も違うようですが、どのような特徴があるのでしょうか。


ミンキアーテ・タロットは1400年代の終わりから1500年代の初めごろに、イタリアのフィレンツェで考案された遊戯用のカードです。
最大の特徴は、一般的なタロットの大アルカナと呼ばれている22枚の絵札が、41枚もあることです。


── 計97枚!現代よく使われるタロットは78枚組ですから、かなり多いですね。

それまでのタロットにはない対神徳[i]のカード、四元素[ii]のカード、12星座のカード(星座の順番が通常とは異なる)が含まれることで、枚数が多くなっています。




2.「ミンキアーテ・タロット~メディチ家に捧げたタロット~」について



── ミンキアーテ・タロットのミステリアスな面が少し垣間見えたところで、今回出版された『ミンキアーテ・タロット~メディチ家に捧げたタロット~』についてお聞かせください。内容について簡単にご紹介頂けますか。

ミンキアーテ・タロットがなぜこのような構成になったのか、そもそもミンキアーテが生まれた理由とは何か?
私自身がイタリア現地で取材した図版や資料を交えながら、タロットが制作された当時の文献や歴史からその真実を解き明かしていきます。


── ミンキアーテ・タロットとはどのように出会ったのですか。

30代後半にたまたま古本屋さんに立ち寄ると目の前にタロットがあり、ちょっと気になりました。
帰宅後にインターネットでタロットを検索していたその時にミンキアーテというタロットを見つけとても興味を惹かれ、調べ始めました。


── たくさんあるタロットの中で敢えてマイナーともいえるミンキアーテに惹かれた理由は何だったのでしょうか。

12星座のカードが含まれ、その順序が通常とは異なっているところです。
元々占星学の知識があったこともあり、ミンキアーテそのものより「なぜ12星座の順序が違うのか」というところがとても気になりました。


── ミンキアーテ・タロットについての資料は非常に少なかったと思います。どのように調べていかれたのでしょうか。

はじめに、ミンキアーテ・タロットについて書かれた『THE Minchiate TAROT』(Brian Williams著)を読むことから始めました。
英語で書かれたその本を全て理解するまでに1年半もかかってしまいました。
それでも12星座の順序については分からないままでした。

ただ、イタリア・ルネサンスが関係していることは分かってきたので、日本で関連する美術書を読みあさりました。
それでも分からないことが沢山ありました。
知りたい病の私(ふたご座)にとって分からないままにしておけなかったんです(笑)
それからイタリア語を一から学び、取材のため何度も現地を訪れました。おそらく15回くらい。それ以上かな。

あと、海外の図書館…例えばバチカン図書館やラウレンツィアーナ図書館などの文献のデジタルデータ化が進んだおかげで、我が家からでも検索し見られるようになりました。
現地での取材に加えて、そういったものも活用して調べていきました。


── 徹底的な調査をもとにしたからこそ、ここまで厚みを持った内容となっているのですね。出版に至るまではご苦労も多かったのではないでしょうか。

言葉に関しては少しずつ分かってきたり、話が通じてきたりすると楽しくなってきました。
現地調査や取材をしようと思ったのは、まだ誰もやっていなかったから。
特に12星座の順序の違う理由を解明した情報や書籍がなかったので、それを伝えたいと思いました。

よく刑事ドラマで「現場100回!」というセリフがありますよね。やっぱり1回訪れただけでは分からないんですよ。
100回は訪れていませんが、同じところに5回訪れて初めて気づいたこともありました。こういう事があると、やっぱり現場(現地)ですね!(笑)

書籍「ミンキアーテタロット」とイベント用に特別に作られたマフィン



── 調査の結果見えてきたことは・・・

カードの起源や絵札に描かれた意味を調べていくうちに、そこには当時の賢人たちが思い描いた「教え」や「教訓」が描かれている、ということが分かりました。
ミンキアーテ・タロットが 制作された 1500 年代前後、古代ギリシャ・ローマ時代の神々や学問が見直され、「それを知る」ということがとても流行していました。
そして、それをより多くの人々に伝えるために「描いて伝える」ということも流行しました。 当時の知識人や画家たちは、人々がより善く生きるための「先人の学問や経験」である「過去の叡智」を復活させ、それらを描き伝え、未来に残そうとしたのです。

もともと、この時代の一般庶民の識字率は非常に低く、伝えるためには「文章」を「画像」にする必要がありました。そしてその画像を教会や広場など庶民の目に見える所に配置しました。
ミンキアーテ・タロットもそれらを伝えるために描いているのですが、現在ではその目的は果たされていないように思います。


── 当時の教えや教訓とは、どのようなものなのでしょうか

例えば「フォルトゥーナの車輪」です。通常では「運命の輪」と呼ばれているカードです。
フォルトゥーナとはローマ神話で幸運を司る女神です。
皆、幸運に恵まれたいと思うでしょう。
このカードには、幸運の恵まれ方(教え)や幸運から見放されてしまう事柄(教訓)が描かれています。


── 人間の普遍的なテーマが描かれていることで、現代でも通じる教えとなっているのですね。それぞれのカードのメッセージは、現代の我々への問いかけでもあるように感じます。




3.今後の活動について



── 香月さんの今後のヴィジョンや活動のご予定があれば教えて下さい。

古典タロットに描かれた真実、「時代を超えて繋がれた叡智」を現代に伝え、それらを未来にも繋げたいと思っています。できればイタリアをはじめ海外にも。
まだ具体的な予定ではないのですが、何らかの形で映像になればいいかな、と考えています。




4.「自己との対話」について


── 東京タロット美術館は「自己との対話」をコンセプトとしています。香月さんにとって「自己との対話」とはどのようなものですか。

基本的に人生は自分自身で考え、決断し、切り開いていくものなのだと思います。そのためには経験と分析力が必要になってくると思います。
自分が経験したことや、先人の知恵などを元に長所や欠点など自己分析をしてみたり・・・

でもね、そうは言ってもなかなか難しい事ですよね・・・
自己と対話するために他者(タロット)との対話を参考にしてもよろしいのでは?

香月ひかるトークイベントの様子


[i] 対神徳
神の恩恵によって人間に注がれること。「信仰」「希望」「慈愛」からなる。

[ii]四元素説を最初に唱えたのはエンペドクレス(紀元前490~紀元前430年)といわれ、物質の根源は「火」「空気」「水」「土」の4つの根の物質からなり、それらを結合する「愛」と分離させる「憎」や「争い」がある、とした。この四元素が様々に分離と結合を繰り返し自然界の変化が生じる、とする説を唱えた。
 後にアリストテレス(紀元前384~紀元前322年)は、火、空気、水、土の4つを「単純物体」と呼び、ほかの物体はこれらで構成されていると考えた。アリストテレスの四元素説は、ギリシャ・ローマ医学の基礎となる体液病理説「四体液説」と関連付けられ、医学・薬学においても重要な理論であった。

香月ひかる (2023) 『ミンキアーテ・タロット~メディチ家に捧げたタロット~』 説話社




香月ひかる×東京タロット美術館
書籍「ミンキアーテ・タロット」出版記念特別企画
~香月ひかるトークショー~

2023.4.26 Wed

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